幽霊男爵の通り名を持つオカルト事件に目がない有閑貴族エリオットと、自分を「人形」という美貌のボーイ(下級の男性使用人)コニー。彼らが社交界でのおしゃべりや伝手で舞い込んでくる不可解な事件や出来事を解き明かしていく、19世紀のロンドンを舞台にした連作形式のオカルト・ミステリ。
主人公のエリオットのからりと明るい性格が影響してか、「オカルト」や「19世紀ロンドン」という言葉から連想するイメージとはちょっと違う仕上がりになっているというか、一味ふた味加わってる感じが面白かったです。あと、エリオットが自然すぎるほど自然に「見える」ことを生かした作中のちょっとした仕掛けに、この話では「誰」が「そう」なのか考えるのも楽しかった。収録作は幽霊よりも生きてる人間のほうが悪質だなあとなる話が多め。個人的には収録作の中ではオカルト色強めの3話と当時の社会事情・常識も絡んでなんとも言えないやるせなさが残る4話が印象に残りました。
登場人物関係は、エリオットとコニーのどことなく共依存的な主従関係の行方が気になるところ。あと、エリオットの友人のヴィクターは堅物ではあれど自分には見えない存在にも礼儀を持って紳士的に接し(ようとし)ていたり、時代背景を考えると十分にいい人だよなあ……としみじみ。他、女性陣では小さな貴婦人レディ・リリアンとエリオットの従姉妹で女性冒険家のアレクサンドラ、エリオットに従う執事ふたり等、それぞれ魅力的で良かったです。アレクサンドラの冒険話、私も聞きたい。
エリオットの痛快な怪奇事件解決をまだまだ楽しみたいのももちろんですが、最終話で明らかになったコニーの背景事情を知ると彼がいつか独り立ちする日が来るまで見守りたい気持ちにならざるをえなかったので、続刊がそう遠くない未来に発売されることを期待しています。
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