同じオレンジ文庫で小料理屋を舞台にした「ゆきうさぎのお品書き」シリーズを展開されている作者さんの新作は、横浜の小さなホテルを舞台にした物語でした。
読了後、「こんなホテルがあったらリフレッシュに泊まってみたいなあ……食事美味しそうだし」と真っ先に思いました(食欲旺盛)
それはさておき、物語の中心となるとなるのは、3年弱勤めたパン屋を師匠と慕っていた店主の急病による閉店でやむなく離職したパン職人の紗良。祖父が勧める結婚を断った彼女は、同じく実家を離れているパティシエである叔父の紹介で横浜・山手にある「ホテル猫番館」の面接を受けることになって……という導入。紗良の他、ホテルの料理長やオーナー親子に焦点を当てた作品が4編収録されています(ちなみに、各話の間にはホテルの看板猫・マダム視点の掌編もあり。) メイン人物となる紗良はいわゆる「良家の子女」ながら、とある出会いをきっかけにパン職人の道を志したという女性。若いながらもしっかりした自分の意志と仕事に対する誇りを持ち、行動する姿は好印象。そんな彼女と接する登場人物たち、それぞれ抱えている屈託は現実離れしたものではないけれど、それ故に当人たちには一笑に付せるものではなく。彼らが作中で悩み考え、時に紗良の真っ直ぐな言葉がほんの少し後押しにもなって一歩を進み出すその過程は素直に応援したくなるし、一山越えたあとの姿には良かったなーとしみじみ。
劇的な展開や盛り上がりはないけれど、優しい気持ちになれる素敵な1冊でした。続編が出たら嬉しいなあ。
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